初心者にもやさしい登山用バックパック(ザック・リュック)のおすすめが知りたい
アウトドア・ギアの中でも特にこだわりたいアイテムのひとつである登山用バックパック。これから登山・ハイキング・トレッキングをはじめてみようという人のひとつめのモデルとしては、ひとまず完全日帰り用と割り切ったうえで20L(リットル)前後のデイパックを選ぶか、あるいは今回紹介するような、日帰りからテント泊まで汎用性が高く、重い荷物も背負いやすい30~40Lの縦走(ハイキング・トレッキング)向けタイプがおすすめです。
そこで今回は主要ブランドから最もオーソドックスな40L前後の登山向けバックパック10点(2017年モデル、カラー変更のみの場合は考慮せず)を厳選。それらを同じ条件で背負い比べ、さまざまな視点から比較し、これから山登りにチャレンジする初心者にも分かりやすいよう目的別のおすすめモデルを選定しました。
バックパック選びには試着が必須とはいいつつも、実際にはお店でちょっと背負ってみてもまだ分からないもの。今回の比較と実際のフィーリングを合わせて参考にしていただき、後悔のないバックパック選びの役に立てれば幸いです。なお、基本的なバックパックの選び方についてはこちらの記事で詳しく書きましたので一から学びたいという人はぜひこちらを参考にしてみてください。
目次
今回比較したバックパックについて
まず比較候補の選定にあたっては、大まかに以下のような基準を考慮しました。
- 容量は大まかに35~45L前後
- 縦走(トレッキング)向けモデル
- アルパイン、ウルトラライト、ウィンターなど専門アクティビティ向けモデルは除く
- 日本の正規代理店から購入可能
- 登山者の間で人気のブランドを中心に選出(ヤマケイオンライン「ブランドイメージ&登山用具購買動向調査2016」参考)
以上の条件からカタログ等の情報によってある程度絞り込み、さらにお店で実際のモデルを見て試着した上で今回の比較候補である10点を絞り込みました。もちろん個人的な興味や好みがまったくないわけではありませんが、少なくともここに挙げた候補はその時点で一定の水準を満たしたおすすめモデルであることには違いないということは念のためお伝えしておきます。
テスト環境
バックパックのテスト期間は2016年4~2017年3月までの約11ヵ月。ほぼ晴・曇天。すべてのアイテムは独自に購入。すべてのパックを試着した評価は筆者本人、その他知人の登山中~初級者数名に3~4点ずつ背負い比べてもらい一通りの感想をもらうなどをして評価精度を高めています。東京近郊や奥秩父・八ヶ岳・上信越の山(1,000~2,500m前後)で使用しました。
テストではまず全モデル、ルートはバラバラですが最低でも1回は10kg程度の荷物で終日~2日以上歩きます。その他、同じコースで2~3アイテム持っていきながら、途中で荷物を移し替えるなどしてほぼ同じ環境下で比較しています。その結果厳密に測定したわけではありませんが、各アイテムで3日分程度の距離は歩いた想定です。その他、詳細なテスト条件・評価内容については各項目の詳細レビューにて補足しています。
今回の比較テストにおける評価指標は以下の6つ。なぜこの指標が大切かについてはこちらの「バックパックの選び方」を参照ください。
- 背中のフィット感や肌当たり、通気性といった気持ちよく背負うための「快適性」
- 荷重が腰・背中・肩に適切に分散されるか、身体が振られた際のブレにくさなどの「安定性」
- 収納の豊富さ、容量の調整力など、荷物の質・量に柔軟に対応できる「収納性」
- 収納内部へのアクセスしやすさ、背面調整、使い勝手を向上させる特別な仕組みなどの機能的な「使いやすさ」
- 長く安心して使う上で地味に欠かせない「重量」「耐久性」
なお、テスト結果の評価数値はあくまでもテストを行った評価者の判断によるものです。できる限り納得性の高い、客観的な評価を目指してはいますが、それでも快適さやフィット感など主観による評価を無くすことは不可能であり、その点についての異論は当然あり得るということを踏まえたうえで参考にしてみてください。
テスト結果&スペック比較表
価格は2017年3月時点での公式オンラインストア価格等から参考として表示してます。
評価結果 ~タイプ別おすすめバックパック~
総合1位:文句のつけようがない完成度ですべてのハイカーにおすすめできる傑作
Osprey ケストレル38
総合1位を獲得したのは、昨年3年ぶりに全面リニューアルしてデザインも新たに生まれ変わった、老舗バックパック専門メーカーの定番バックパック。
「総合」という評価にふさわしく、このバックパックの素晴らしさはほぼ欠点がないといえるほどの完成度の高さにあります。第一に安定した背負い心地。背面パネル「エアスケープバックパネル」はクッション性こそそこまで高くはないものの、荷重を支えるための強靱さと背中にフィットするだけの柔軟性のバランスが絶妙。さらに放射状に広がった溝が通気性を確保し、登りが続いて汗ばんできたとしてもまずまず快適。クッション性と粘り強さを兼ね備えたショルダー・ヒップベルトは、適度に軽量化されながらも快適さと安定性が確保され、おまけに調整可能な背面長はあらゆる体型のユーザーに適正なフィットを約束してくれます。
そして何より圧巻は、これ以上望めないほど満載された使いやすい収納・機能の数々。フロント・サイドにはストレッチ性ポケット、フロント・サイド・ボトムと多様な位置にさまざまなギアを取り付け可能なストラップやデイジーチェーン、ダイレクトにアクセス可能なサイド・ボトムのジッパーアクセス、パックの外側にあって出し入れしやすいハイドレーションパック収納などひとつひとつの収納がいちいちツボを押さえたつくり。さらに今では多くのモデルで真似されている、背負ったままトレッキングポールを収納できるポールアタッチメントなど、まだまだ挙げればキリがないですが、とにかく使う人に寄り添った実践的な便利機能が満載です。
どこにもいちゃもんのつけようがない完成度の高さはまさに脱帽ものですが、忘れてならないのがここまでの完成度にもかかわらず、今回のモデルのなかでも最もリーズナブルな価格である点です。サイズ的にも大きすぎることはなく、日帰りハイキングから小屋泊まり、上手く収納すればテント泊にもギリギリ使用に耐えうるので、これから登山をはじめようとするすべてのビギナーにはまさにうってつけ。今、もし登山初心者でまず何を買ったらよいか分からないという人がいたら、ぼくは間違いなくこのパックを最初におすすめするでしょう。
なお、このモデルについての詳細なレビューをこちらで紹介していますのでよかったら参考にしてみてください。また、オスプレーという希有なバックパックメーカーについても少し触れているこちらのバックパックのレビューも合わせて読んでもらえると嬉しいかと。
安定した背面システムで大容量・長距離トリップにおすすめ
karrimor intrepid 40
前回比較レビューでの総合1位から惜しくも今回トップの座を譲ることにはなりましたが、それでも相変わらずトップクラスの快適さを誇る優れたザックです。
今回の比較で特に際立ったのは、プレミアムなクッション性の高さと背中~腰にかけて連動性の高い強靱なパネル(「PEプレート」「PEプレート内蔵ヒップベルト」)による、重荷でも安定して快適な背負い心地の良さ。やや硬質なショルダーは人によっては多少肌当たりが気になるかもしれませんが、それは逆にいうと重荷で歩いたときのぶれにくさ・ヘタれにくさという安定感を意味しています。とにかくどれだけ重荷・長距離であってもしっかりと荷重を腰で支えることができる安定感は飛び抜けていました。ちなみに背中にフィットした状態でも通気スペースが確保される「エアスペースシステム」構造によって春夏のトレッキングでもムレや発汗はそれほど気になりません。
さらにテント山行でも何とか許容できる容量と収納性の高さ、そしてパッキングのしやすさもこのモデル大きな魅力の一つ。ゆったりとした大きなメイン収納、同じく余裕をもった天蓋・フロント・サイドのポケット類は使いやすく収納性抜群。さらにこのサイズのバックパックには珍しい、U字型に大きく開くフロントアクセスがパッキングや出し入れのストレスを限りなく軽減してくれます。
「安定した背負い心地」と「高い収納性」はバックパックにとって最も基本的な機能。とにかく快適な背負い心地を優先する人にはもちろんですが、登山のキツさに慣れていないビギナーにとっても非常に相性が良いとも言えます。ただ昨今の流行である「軽いバックパック」では決してありませんので、日帰り派、ファストパッキング派には向いていないことは確かです。いうならば週末登山でちょっと長距離・大荷物で厳しい山行になりそうだなと感じたときにチョイスしたくなる、そんないざというときに頼もしい兄貴的な存在。
なお、このモデルの詳細レビューについてもこちらで紹介していますのでよかったら参考にしてみてください。
雪山も含めたオールシーズン利用におすすめ
MAMMUT LITHIUM CREST 40+7
今はまだだとしても、いつかは雪に覆われた山にもチャレンジしたい。そう思っているなら、オールシーズン使いやすいモデルを選ぶのが効率的。もちろん冬山には専門のパックが存在していますが、正直それは本格的にのめり込んでからでも遅くはありません。
今回ピックアップしたすべての候補は雪の季節でも使えないことはありませんが、実際に雪山で使うとなった場合、いくつかの点で「より適したつくり」というものが存在し、それらを最も満たしているのがこのリチウムクレスト40+7です。
まず背面システムに関していえば、たとえ快適であっても背面メッシュですき間を作って通気性を高める「トランポリン構造」は冬には逆効果。すき間に雪が入りやすいというのも気持ちが悪い。重荷になりやすい冬は重心が背中に近くクッション(保温)性に優れた背面の方が好ましいといえます。その点荷重伝達に優れ、ソフトなパッドで肌当たりも柔らかなこのモデルは、冬を考慮に入れた場合はトップクラスの背負い心地です(若干ベルト幅が細いのが気になりますが)。
もうひとつ雪の季節を考えたときに求められるのは、アイゼンやヘルメット、ワカン、スノーシュー、スコップなど多くのかさばる雪山特有ギアをストレスなく取り付けられるアタッチメント類の充実ぶりです。この点に関してもコイツは今回の比較中トップクラスの使い勝手を見せてくれました。伸縮性がありなおかつパッド付で丈夫なフロントポケット、荷物の量に応じて高さ調節可能なデイジーチェーン付の天蓋、2つのアックス・トレッキングポールアタッチメントなど多彩なアタッチメントに加え、サイドのコンプレッション ストラップはギアの大きさ・形状に応じてフロントに張ることも可能。さらにボトムにもしっかりギアループが配置されているのでマット類の取付にも悩みません。とまぁ本格的な冬山登山に最適とまではいいませんが、泊まりでなければ冬のトレッキングでも収納力は十分。もっとも、これ以上の冬用機能を求めるのならそもそも40Lでは物足りないはずなので、性能としてはこれくらいで十分といえます。
真夏のトレッキングにピッタリとは言わないまでも特に不自由なく使え、さらに冬でも活躍してくれるという意味ではオールシーズン通して活躍してくれるおすすめの一品です。ちなみにマムートの同じような40L前後のトレッキング向けでどちらを選ぶか非常に悩ましかったモデルにCREON PROがあります。大きく違うのはCREON PROの方が背面通気のトランポリン構造である点で、春夏限定での使い勝手を考えるとこちらの方が良いかもですね。
快適・シンプル・丈夫が魅力、春夏のハイキングや旅行におすすめ
deuter Futura Pro 36
2度のアメリカ旅行では街に、国立公園歩きにとお世話になったバックパック。背中とバックパックの間に空間をもたせ、密着部分をメッシュ素材にすることで背中の通気性を最大限高めた「トランポリン構造」の背面システムは、今や多くのメーカーによって当たり前のように採り入れられていますが、いち早くこの有効性に目をつけ、長い年月をかけて進化させていったのは他ならぬドイターであり、その実績は伊達ではありません。
肩から背中、腰にかけてスムーズに、柔らかく密着する絶妙な肌触りは、発売から年月がたっていにもかかわらず未だに他のモデルと比べても頭ひとつ抜きん出ていました。さらに通気性の高い背面構造は温暖な季節で穏やかめな活動に使うならばメリットしかありません。耐久性の高い生地と縫製など、ドイツのクラフトマンシップが活かされた作りの良さは健在。旅行や軽いハイキングという用途なら、外部のアタッチメントはむしろ基本的なポケット・ストラップが配置されたこれくらいでちょうどいいといえます。
どのモデルでも旅行や簡単なハイキングであれば問題なく使えることは確かです。ただあえて最良を選ぶとすれば、背負い心地の快適さと使い勝手のシンプルさ、それでいて頑丈なこちらがベスト。テクニカルな登山や重荷・長距離にはもっと適したモデルがありますが、クセのないオーソドックスさ、加えて比較的リーズナブルな価格という意味では登山入門向けのパックとして十分におすすめです。
なお、このモデルの詳細レビューについてはこちらで紹介していますのでよかったら参考にしてみてください。