バラクラバ探しは冬山防寒着”最後のピース”をさがす旅
冬のアウトドアで最も恐ろしいのは何といっても冷え・寒さからくる凍傷や低体温症。このため冬山では、日常においては外気に露出している「手」と「顔」の保護・防寒は欠かせません。このうち、手の防寒を担うギアが「スノーグローブ」であることはみなさんご存知かと思います。では一方、冬山で顔周りの寒さをシャットアウトする道具は何でしょうか?
まず思い浮かぶのはニット帽やビーニーといった、街やスキー場でもよく見かけるヘッドウェア、そして首周りの防寒に役立つマフラーやネックウォーマーです。ただこれらは冬の低山ハイキング程度までには対応できるものの、平地の何倍も低温で風の強い積雪のある冬山ではまったくもって物足りません。
そこで必要になってくるのが、眼以外の顔全体をスッポリと覆う防寒着「バラクラバ」です。この名前にまったくピンとこないぼくのような方には「目出し帽」といえば、あぁ、とイメージが湧くかもしれません。ちなみにぼくの周りでの呼び名は「めでぼう」でした(なぜ横文字で言い始めたのかは不明ですが、完全に日本語の方が分かりやすいし味わい深しです)。
そんなバラクラバは、3つの理由で現時点では山道具の中で最も理想のモデルを探すのが難しいギアだと感じています。その理由のひとつは、店頭で実際の利用シーンに近い試着ができないこと。その場では心地よくても、実際の極限状況で装着してみるとそうでもなかったり、よくあります。もうひとつは、利用シーンが冬の厳しい寒さという極めて狭い範囲であるにもかかわらず、高いものになると1万近くにもなるという手の出しにくさ。どうしても手頃な価格のもので済ましてしまいがち。
そして最後、最も大きな理由は、バラクラバが顔全体を保温しつつ口・鼻周りの空気は大胆に排出するという極端な機能を同時に求められる、意外と複雑な道具だからです。その意味ではまだまだ発展途上であり、そこがこのギアを「冬山における防寒装備、最後のピース」と言わしめるわけです。
そこで今回は、これまで長い間いろいろなモデルを試し、悩み続けてきた経験にもとづいて、バラクラバの選び方をあらためて整理し、その結果現時点でかなり完成形に近づいている最もおすすめのバラクラバをタイプ別に7着選出してみましたので、ぜひとも参考にしてみてください。
目次
チェックポイント1:プロテクション(保温・防風性)
バラクラバが必要になるシーンとは、ニット帽(ビーニー)やネックウォーマーだけでは寒さを防ぎきれなくなるほどの寒冷・強風下。この状況でまず何が求められるかと問われれば、間違いなく最も重要なのは保温・防寒性能です。
その保温性を大きく左右するもののひとつが、バラクラバに使われている生地・素材。かつては冬季ウェアの保温素材といえば、昔ながらのウールや、アクリルなどの化繊素材が主流でしたが、それらはチクチクした肌触りがネックとなり、顔に装着するにはまだまだ改良の余地がありました。それが最近ではさまざまに進化した素材が取って代わるようになり、目的と用途に合わせて選べるようになっています。以下、最近の主流となりつつある素材を順に見ていきます。
化繊(フリース・ソフトシェル)
現在バラクラバの素材として最も広く採用されているフリースは、機能性と快適性を兼ね備えたバランスの良さが魅力。元々、ウールにとって代わる「軽くて暖かくてすぐ乾く」理想のセーターとして進化していったフリースはバラクラバとの相性もバッチリでした。さらにその後の研究開発によって現在では基本的な保温性と速乾性に加えて、さらに効果的な機能が追加されたラインナップが展開されています。
- 極寒地域での利用に適した、保温性抜群の「ポーラテック・パワードライ」
- よりフィット感を高めるために伸縮性を強化した「ポーラテック・パワーストレッチ」
- 「ウィンドストッパー」メンブレンを挟んだフリースは防風性を高め、低温だけでなく強風下でも高い断熱性を可能にします。
また、フリース素材に加え、最近では適度な防風性と保温性、通気性を併せもったソフトシェル素材もバランスの良さで採用が増えてきています。
メリノウール
古くからのウールに比べて抜群の肌触りのよさと吸湿保温性を備えたメリノウールは、ここ数年の世界的なブームとともに保温素材としてさまざまなアイテムに用いられるようになってきました。メリノウール製バラクラバの良さ何といってもその着け心地の良さと適度な保温力、そして天然の防臭性。一方で防風性はあまり期待できません。
補足:保温性を決めるのは素材だけでは無い
より暖かいバラクラバを選ぶ際に注意しなければならないのは、首周りのつくり。首の下部までしっかり覆っていないバラクラバは風が吹き込んできてしまう可能性があります。首周りが短めのモデルは注意し、万が一短い場合はネックウォーマーやジャケットをしっかり閉めるなどして対応するようにしましょう。
チェックポイント2:快適性(フィット・呼気対応)
いくら保温性バッチリの素材でも、サイズが小さすぎでは顔が突っ張り息苦しく、逆に大きすぎであればヘルメットや風などの影響ですぐにズレてしまい、視界が塞がってしまい非常に危険です。その意味でバラクラバのサイズ選びとフィット感の良し悪しは重要。特にサイズがワンサイズしか無いモデルや、伸縮性の無い素材には注意が必要です。やはりベストは実際に試着してみることでしょう。
さらにバラクラバの使い勝手を決める上でもうひとつ重要なポイントが、口周りの通気性です。冬山登山に限らず、スキーやスノボなどあらゆるウィンタースポーツではサングラス・ゴーグルは必携。それらを装着した状態で口元を塞ぐと、口と鼻からの蒸気がレンズの内側にかかり、どれだけ曇り止めを塗ろうと、基本、曇りまくりです。寒い→鼻まで隠す→ゴーグルが曇って前が見えない・内側が蒸れる→鼻・口を開ける→寒い→以下ループ・・・という悩ましい問題がバラクラバにはずっと存在していました。そんなギアとして不十分と言わざるを得ない状態が長らくありましたが、最近では口周りをメッシュ構造にするなどして呼気を効果的に外へ排出し、曇りや蒸れを解消するモデルが登場しています。

細かい条件にもよるのかもしれないが、メッシュになっていれば何でもよいかというと、テストしてみた限りでは残念ながらそうでもない。曇らないかどうかはここでのレビューを参考にするか、試着でできる限り確かめてみるしかない。
チェックポイント3:その他の機能
汎用性
比較的薄手で伸縮性のあるバラクラバの場合、状況に合わせて被り方を変えることで、下の図のようにさまざまな使い方ができます。逆に、ゴツくて伸縮性の少ないモデルでは、プロテクションは高い一方、そうした柔軟性は乏しいのが一般的です。
防臭性
直接鼻を覆うものであり、呼気などでどうしても口周りに唾液が付いてしまうバラクラバは長時間装着するような使い方になればなるほど、防臭機能非常に有り難い。その点、メリノウールは天然の防臭性を備えているので安心です。
おすすめ:タイプ別おすすめバラクラバ7選
薄くても保温性抜群の高機能フリース素材を採用
Black Diamond コエフィシェントバラクラバ
保温性★★☆ 耐風性★★☆ フィット★★★ 呼気対応★☆☆ 汎用性★★★ デザイン★★☆
Polartec PowerDry High Efficiency は薄手ながらも高い保温性と速乾・通気性を兼ね備えた高機能フリース素材。状況に応じて4通りの被り方ができ、耳部分の二層構造は周囲の声がクリアに聞き取りやすいなど、細かい使い勝手の良さも◎。
あの見た目がどうしても苦手という人でも十分いけるカジュアルさ
Smartwool NTSミッド250パターンバラクラバ
保温性★☆☆ 耐風性★☆☆ フィット★★☆ 呼気対応★☆☆ 汎用性★☆☆ デザイン★★★
ベースレイヤーやソックスで定評のあるスマートウールは、厚手のメリノウール100%、縫い目が膨らまないフラットロックシーム構造で着心地は抜群。色遣いもこなれており、カジュアル寄りなウィンタースポーツにはちょうどいい。ただし顔の露出部分は広め、防風性も低いので、あまりハードな場面には不向きか。
軽量ながら抜群の暖かさと着心地、おまけにメガネの曇りも無し
mont-bell スーパーメリノウール バラクラバ
保温性★★☆ 耐風性★☆☆ フィット★★★ 呼気対応★★☆ 汎用性★★★ デザイン★★☆
上と同じメリノウールがメインのバラクラバですが、価格と見た目から舐めてかかった予想を上回る機能性の高さ。防風性は少ないものの、保温性は十分。サイズはバリエーションがあり、フィット感もスマートウール以上。何より素晴らしいのは、鼻の部分の立体的なつくりと調節可能な樹脂製の芯による曇りにくい仕組み。もちろん状況に合わせて4パターンの使い方が可能です。露出部分も少ないので、本格的な冬山でも大丈夫そうだし、手頃な価格もあってさすがモンベルといいたくなるお買い得バラクラバ。
バラクラバとしても優秀、下半分を頭部に収納してビーニーにも
finetrack バラクラバビーニー
保温性★★☆ 耐風性★★☆ フィット★★☆ 呼気対応★★☆ 汎用性★★★ デザイン★★★
基本的なコンセプトは、バラクラバ機能を併せもつビーニーだからこそ、頭部の保温は抜群(しかもヘルメット対応)。バラクラバモードでも保温性・耐風性・呼気対応など機能は十分。その他ゴーグルを額に上げていても曇りにくいアンチフォグシステムや、防臭機能など細かい点まで使い勝手抜群。
フィット、防風、保温、すべてにおいて隙がないエクスペディションモデル
THE NORTH FACE Expedition Balaclava
保温性★★☆ 耐風性★★★ フィット★★☆ 呼気対応★★★ 汎用性★☆☆ デザイン★★☆
ポーラテックの異なる2素材を組み合わせたマッピングにより、最高度の防風性を備えつつ十分な保温性とフィットを実現。口の部分にはゴーグルを曇りにくくするためのフォグベントを、鼻の部分にはノーズカバーと、まさに待ってましたと言わんばかりのフルスペックバラクラバです。冬季登攀や高所登山、厳冬のバックカントリーツアーなどで大活躍することは必至。その代償として汎用性には欠けるため、口元を開けたり、頭部分だけ脱いだりといった使い方はできません。
確実なプロテクションと呼気の処理が完璧
OUTDOOR RESEARCH GORILLA BALACLAVA
保温性★★★ 耐風性★★★ フィット★☆☆ 呼気対応★★★ 汎用性★☆☆ デザイン☆☆☆
こちらも基本的には厳冬期のテクニカルルートを意識して作られているため、内側は保温性の高いソフトフリース、外側は耐候性のシェルになっているなど機能的には申し分なし。さらに特徴的なのは鼻部分とメッシュの呼吸口は取り外し可能で、天候に応じてカバーの範囲を調節できること。今回のおすすめしている中で、呼気による曇りは最も少なく(というかほぼゼロ)性能的には太鼓判を押したいのですが、非常にクセが強いことも事実。まずベルクロでの装着が非常に難しく、時間がかかるうえ、慣れるまで(?)どうしても不格好になってしまいます。伸縮性も少なく、頭の形やサイズは人を選ぶかもしれません。
プロテクションと使い勝手の良さが両立した秀作
NORRONA /29 Balaclava
保温性★★★ 耐風性★★☆ フィット★★☆ 呼気対応★★☆ 汎用性★★☆ デザイン★★☆
フルフェイス型のバラクラバのなかでもフィット感が素晴らしく、なおかつスタイリッシュなところが相変わらずいいセンスしているノローナのバラクラバ。頭部を外してフェイスマスクとして、また首回りだけのネックゲイターとしても使用できます。